その疑問に瞳を閉じる。
今は、そんなコトを考えている時ではない。
脳裏に、浜島の顔が浮かび上がる。
「あまり成績を落して、我が校の名前に傷をつけないでくれたまえよ」
今回の試験は校内的なもの。学校の対外的なイメージには関係ないはずだ。だが浜島にとって、そんなコトはあまり関係ない。
所詮は口実。
成績が落ちたことで、美鶴を追い出す良い口実ができたのだ。
名門私立高校において、かなりの権力を行使できる浜島にかかれば、どんな要素も退学の理由にすることができる。
順位だって、たとえ落ちたといっても、まだ総合成績は上位には残っている。はずだ――――
そこで思わず、唇を噛んだ。
実際、何位にまで落ちたのか、美鶴は知らない。
順位は毎回、教室の後ろに貼ってある。だが、毎回一位を獲得している美鶴にとって、結果が出るたびに順位表を確認する行動は、ひどくバカらしいコトのように思えた。
掲示物の前で一喜一憂している同級生へ、侮蔑の視線を投げたコトも一度や二度ではない。
そんな美鶴が順位を確認しにいけば、周囲にはきっと、美鶴が今回の成績に動揺していると思われるだろう。
そんな風には思われたくない。
点数は、今日返してもらった答案で確認できた。酷いものだった。
わからなかったワケではない。ただ、解答欄が途中からすべてズレてしまっていたのだ。
@に記入しなければならない答えをAに、Aに記入しなければならない解答をBに……
どうして途中で気付かなかったのだろう?
美鶴自身、まさかそんなミスをしでかしているとは思っていなかった。ほぼ完璧に記入したはずだった。だから、同級生から順位降下の話を聞かされても、正直信じられなかった。
なぜあんなミスをっ!
原因を追究すると、どうしても瑠駆真や聡の顔が思い浮かぶ。
ヤツらが私の日常を掻き回すから、テストでの集中力が落ちたのだっ!
瑠駆真や聡が聞いたら、どんな顔をするだろうか? なんと理不尽な理由だろうと、それこそ言葉を失うだろう。
今の美鶴には、自分の犯した失態の治め方について、誰かに擦り付けるという方法しか思いつかない。
だが、どこまで順位を落したのかがわからない。
知りたい――――
瑠駆真や聡にそれとなく聞けばよかったか?
それも癪だ。
「なんなんだよっ!」
バンッと右手で机を叩く。しかし、身の内を駆け巡る苛立ちは、一向に静まる気配を見せなかった。
話し声がしたので、ふと覗く。ちょうど木崎が、受話器を置くところであった。
「あぁ」
主の姿を認めると声をあげ、足早に向かってくる。
「出かけられるのですか?」
「無論」
「今日の夕方には、こちらに来られるのですよ」
「………誰が?」
わかってはいるが、つとめて知らぬフリ。それは、木崎もわかっている。
やれやれと首を振った。
「智論様ですよ。お知らせしておいたはずです」
「あぁ そうだったな」
忘れていたよ、と付け足して、足を玄関へ向けた。
「せめて今日くらい、外出はお控えした方がよろしいかと」
「別に智論に用はない。向こうだってそうだろう?」
「いえ、何かお話があるようでしたよ」
「なら、お前が聞いておけ」
ぶっきらぼうに告げる主。木崎は小さくため息を吐いた。
そんな、うんざりとした表情がおもしろい。
「どうせなら、電話で済ませてしまえばよかったのに」
霞流慎二は薄く笑う。
「智論だったんだろう? 今の電話」
「いえ」
慎二の言葉に木崎は目を丸くし、やがてゆっくりと口を開いた。
「大迫様ですよ」
「おお…… さこ?」
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